古文の解き方や勉強法、参考書や問題集の紹介 第7回「識別③『に』」

みなさんはじめまして。

七隈国英塾の杉久保英司と申します。当ホームページをご覧いただきありがとうございます。

今回は(第7回)「識別③『に』」を解説していきます。

識別は「ぬ・ね」「る・れ」「なり」「なむ」「に」の5種があり、「に」が飛びぬけて難しいです。「に」の識別は偏差値50後半の大学がよく出題してきます。必要ない人はやらなくても大丈夫な単元です。必要な人は、まず他の4つの識別を完成させてから、「に」の識別に移りましょうしょう。

それでは、七隈国英塾の作法にのっとり今回の要点を3行でまとめます。

①「に」の識別は7つ。連用形+に=完了「ぬ」。「にけり」はナ変動詞のひっかけもある。
②体言・連体形+に=格助詞「に」、接続助詞「に」、断定の助動詞「なり」の連用形
③活用する=形容動詞の連用形の活用語尾「に」、活用しない=副詞の一部「に」

★現代文、古文、英語の勉強法をまとめた記事はこちら★
国語、英語の読み方、解き方、勉強法や参考書、問題集の紹介

前回:古文(第6回)「識別②『なむ』」
次回:古文(第8回)「助動詞①接続を覚えよう」

1.「に」の識別は7つ。連用形+に=完了「ぬ」。「にけり」はナ変動詞のひっかけもある。

図1.7つの「に」の識別

「に」の識別は7つ

「に」の識別は7択で覚えましょう。

連用形+「に」
完了の助動詞「ぬ」の連用形の「に」(100%)

体言・連体形+「に」
「に」、「それに」で訳せる→格助詞「に」
「~である」と訳せる→断定の助動詞「なり」の連用形「に」

「~けど」(逆接)「~ので」(順接)「~て」(単純接続)で訳せる
→接続助詞「に」
(体言には接続しません)

接続無し
⑤活用する→「ナリ活用形容動詞」の連用形の「に」
⑥活用しない→「副詞」の一部「に」、いかに、ついに、まさに、げに

⑦「死に」「去に」「往に」→ナ変動詞の連用形の活用語尾
「死にけり」、「去にけり(ゐにけり)」、「往にけり(いにけり)」に注意。

連用形+に=完了「ぬ」

連用形に接続する「に」は完了助動詞の「ぬ」の連用形です(100%)。

連用形接続の助動詞は「き、けり、つ、、たい、けむ、たし」

完了の助動詞「ぬ」
未然(ず)
連用(て)
終止(。)
連体(時)ぬる
已然(ど)ぬれ
命令
完了の助動詞「ぬ」の活用表

例文

部屋から出でけり。

咲きけり。

出づ咲く
未然(ず)
連用(て)
終止(。)
連体(時)づる
已然(ど)づれ
命令でよ

連用形+「に」は完了と覚えましょう。「にけり」(完了+過去)という形をとることが多いです。

「にけり」はナ変動詞のひっかけもある

「にけり」はナ変動詞の連用形の活用語尾+過去の助動詞「けり」のひっかけがあるので気をつけましょう。

死ぬ、去ぬ、往ぬ
未然(ず)
連用(て)
終止(。)
連体(時)ぬる
已然(ど)ぬれ
命令

例文

死にけり、去にけり(ゐにけり)、往にけり(いにけり)
ナ変動詞「死ぬ」の連用形の活用語尾+過去の助動詞「けり」の終止形。

この章をまとめ
・「に」の識別は7択
・:連用形+「に」→完了
「にけり」は完了のことが多い。
・「死にけり」、「去にけり」「往にけり」はナ変動詞の連用形の活用語尾の「に」

2.体言・連体形+に=格助詞「に」、断定の助動詞「なり」の連用形。体言+に=接続助詞「に」

格助詞」と「接続助詞」と「断定助動詞」の復習

体言・連体形+「に」→①格助詞「に」②断定「なり」の連用形③接続助詞「に」

3択になります。

体言・連体形+「に」
「に」、「それに」で訳せる→格助詞「に」
「~である」と訳せる→断定の助動詞「なり」の連用形「に」

「~けど」(逆接)「~ので」(順接)「~て」(単純接続)で訳せる
→接続助詞「に」
(体言には接続しません)

格助詞「に」と接続助詞「に」は

主語が変わることがある

という点も重要です。

格助詞「に」と接続助詞「に」
①格助詞「に」→「に」、「それに」と訳せる。場所、時間、原因、理由を表す。
②接続助詞「に」→「~けど」(逆接)「~ので」(順接)「~て」(単純接続)で訳せる

格助詞のとは文における名詞の関係性(主格や目的格など)を示す記号(マーク)です。日本語では「は」「の」「を」などの格助詞をつけることで格を表します英語では「I, my, me. mine」のように「格変化」で格を表します。

接続助詞は、順接や逆接を表す接続語に相当します。「に」1語で順接、逆接、単純接続全てを表すことが、古文の難しい点だと思います。

断定の助動詞「なり」の連用形

断定「なり」
未然(ず)なら
連用(て)なり(に)
終止(。)なり
連体(時)なる
已然(ど)なれ
命令なれ

例文
①かぐや姫は、罪を作り給へりければ、かくいやしきおのれがもと、しばしおはしつるなり

「かぐや姫は、罪をつくりなさったので、このように卑しいお前らのもと、しばらくいらっしゃったのだ」(「に」と訳せるので、格助詞「に」

②かぐや姫を養ひ奉ること二十余年なりぬ。片時とのたまふ、あやしくなり侍りぬ。
「かぐや姫を養い申し上げて20数年なりました。ちょっとの間とおっしゃるので、不思議に思いました」(順接「~ので」で訳せるので、接続助詞「に」)

③望月の明かさを十合はせたるばかりて、在る人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。
「満月の明るさを10倍したくらいであって、そこにいる人の毛穴までも見えるほどであった」(「である」と訳せるので、断定の助動詞なりの連用形の「に」

体言・連体形+「に」の3択識別をやってみよう

問題「に」に注意して訳しましょう

①人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりやありけむ。
②御車奉るところ掛物を持って奉りて、
③物語を見まほしき、誰かは物語もとめ見する人のあらむ。

ヒント
①「に」のあとの「や」は係助詞で訳さなくてよい。
「奉る」は尊敬語と謙譲語がある。今回は両方使う。
③「に」のあとに読点「、」がついているので「断定」ではない。

正解
断定助動詞なりの連用形「に」
格助詞「に」、格助詞「に」
接続助詞「に」(逆接)


①恨み嫉みが積もり積もった結果であったのであろうか、
②御車お乗りになられるところ掛物をもって差し上げて、
③物語を見たいけれど、誰が物語を見せてくれる人がいようかいやいない。

解説
訳のやり方がちょっと難しい。「結果」を補ってみるとうまく訳せる。
「奉る」尊敬語で「お食べになる、お召しになる、お乗りになる」謙譲語で「差し上げる」という意味がある2つ目の格助詞「に」で主語が変わっていることにも注意しよう。
③「に」が「けれど」と逆接で訳せるので接続助詞接続助詞「に」で主語が変わっていることも重要。

★敬語をまとめた記事はこちら★
古文(第4回)「敬語『給ふ』『参る』『奉る』」

『格助詞「にて」』と『断定助動詞「に」+接続助詞「て」』

格助詞「にて」
断定の助動詞なりの連用形の「に」+接続助詞「て」

格助詞「にて」の存在を知っていれば、あまり間違えません。

しかし、知らないとミスをしたり時間がかかったりしますので、格助詞「にて」を覚えましょう。

「にて」
①格助詞「にて」→年齢・場所、手段、原因(英語の「by」に近い)
②断定の助動詞なりの連用形の「に」+接続助詞「て」→「であって」と訳せる

例文
①この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。(土佐日記)
「この家生まれた女の子が、一緒に帰らなかったので、とても悲しい」(格助詞にて」が場所を表す)

②舟にて詣でたり。
「船参詣した」(格助詞「にて」が交通手段を表す)

望月の明かさを十合はせたるばかりて、在る人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。
「満月の明るさを10倍したくらいであって、そこにいる人の毛穴までも見えるほどであった」
断定の助動詞なりの連用形の「に」+接続助詞「て」単純接続

復習問題傍線部を訳しましょう」
この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。(土佐日記)

ヒント
①「ね」は「打消し」か「完了」のどちらか
→「ぬ・ね」の識別
②「ば」は「順接仮定条件」か「順接確定条件」→「接続助詞」の接続
「もし~したならば(=実際には~していない)」の仮定の話か、「実際に~したので」の確定した話か。

解答
「一緒に帰らなかったので」

解説
①「もろとも」は重要古語ではない。そのまま訳しましょう。
「帰ら」が未然形なので、「ね」打ち消し「ず」の已然形
「ね」が已然形なので、已然形接続の「ば」は順接確定条件(実際に~したので)

この問題をちゃんと文法的に説明できなかった人は復習をしましょう。

★「ぬ・ね」の識別をまとめた記事はこちら★
古文(第5回)「識別①『ぬ・ね』『る・れ』『なり』」

★接続助詞をまとめた記事はこちら★
古文(第3回)「接続助詞『ば』『を』『に』」

この章をまとめ
体言+「に」→
①格助詞「に」、②断定「なり」の連用形
連体形+「に」→
①格助詞「に」、②断定「なり」の連用形、③接続助詞「に」
体言・連体形+「に」の3択は訳で識別しましょう
「にて」は格助詞「にて」のほうを覚えておけば大丈夫。

3.活用する=形容動詞の連用形の活用語尾「に」、活用しない=副詞の一部「に」

形容動詞」と「副詞」の識別は「活用するか・しないか」で識別しよう

「形容動詞」と「副詞」の2択もよく悩むところです。

「形容動詞の連用形の活用語尾」と「副詞の一部」
①「形容動詞」→活用する(用言なので)
②「副詞」→活用しない

用言=動詞・形容詞・形容動詞のトリオ
活用するのは「用言3つ」と「助動詞」だけ

識別の仕方は2つ

識別の仕方
①「ず・て・。・とき・ど」を付けてみて活用するかどうか確認する
活用する→「形容動詞」活用しない→「副詞」

代表的な副詞はちゃんと覚える
「いかに、ついに、まさに、げに」

「に」の識別7択をやってみよう

問題「」を識別しましょう。

①この衣着つる人は、もの思ひなくなりければ、車に乗りて、
②あやしがりて寄りて見る、筒の中光たりけり。
③法師ならんがため、読経をしたりけり。
④当寺の破滅、まさこの時に当たれり。
⑤あながち御前去らずもてなさせ給ひけり。
⑥いかに思ひ始めけることか、世の中に物語といふもののあんなるを、
⑦大納言の娘、去年の春往けり。

ヒント「まず接続で選択肢を絞ろう。意味はその後で根拠にする」

連用形+「に」
完了の助動詞「ぬ」の連用形の「に」(100%)

体言・連体形+「に」
②「に」、「それに」で訳せる→格助詞「に」
③「~である」と訳せる→断定の助動詞「なり」の連用形「に」

④「~けど」(逆接)「~ので」(順接)「~て」(単純接続)で訳せる
→接続助詞「に」
(体言には接続しません)

接続無し
⑤活用する→「ナリ活用形容動詞」の連用形の「に」
⑥活用しない→「副詞」の一部「に」、いかに、ついに、まさに、げに

⑦「死に」「去に」「往に」→ナ変動詞の連用形の活用語尾
「死にけり」、「去にけり(ゐにけり)」、「往にけり(いにけり)」に注意。

正解
①完了の助動詞「ぬ」の連用形の「に」
②接続助詞「に」(「~すると」単純接続)
③格助詞「に」
④副詞「まさに」の一部の「に」
⑤形容動詞「あながちなり」の連用形の活用語尾の「に」
⑥断定の助動詞「なり」の連用形
⑦ナ変動詞「往ぬ(いぬ)の連用形の活用語尾の「に」

解説
①「なくなり」は四段動詞「なくなる」連用形連用形接続なので完了「ぬ」

②「見る」は上一段動詞「見る」の連体形。この段階で「に」の3択になる。「~と」で訳せるので接続助詞「に」

③「法師」が体言。この段階で「格助詞」「断定の助動詞」の2択になる。そのまま「に」と訳せるので格助詞「に」

接続が無く、ナ変動詞でもないので、「形容動詞」か「副詞」の2択になる。「まさに」自体は重要な副詞なので覚えよう。それでも分からない時は「ず」「て」「。」「とき」「ど」と後ろに着けてみて活用させてみよう。活用できないので副詞。

接続が無く、ナ変動詞でもないので、「形容動詞」か「副詞」の2択になる。「ず」「て」「。」「とき」「ど」と後ろに着けてみて活用させてみると「ナリ活用」するので、形容動詞「あながちなり」の連用形の活用語尾の「に」になる。ちなみに「あながちなり」は重要古語「強引に」という意味がある。(類義語「せめて=強引に」)
「あながち=強ち」を体言と取ってしまうと、「に」を「断定」と間違えてしまう。
そもそも「形容動詞=体言+断定のなり」という風に作られた経緯があります。
対策としては、重要古語は覚えてしまうことが大事です。

⑥「こと」が体言。この段階で「格助詞」「断定の助動詞」の2択になる。「~である」と訳せるので、断定の助動詞「なり」の連用形。

⑦「にけり」の形はほとんど「完了+過去」の形。しかし、今回は例外の「ナ変動詞」の連用形の活用語尾+過去の助動詞「けり」

この章のまとめ
・「形容動詞」は活用する。「副詞」は活用しない
・重要な「副詞」は覚えよう。
・「に」の識別はまず活用を見て選択肢(1択、3択、2択、1択)を絞ろう。
・連用形+「に」は完了「ぬ」
体言・連体形+「に」の3択は意味で識別しよう
「形容動詞」「副詞」の2択は活用させて識別しよう
・「ナ変動詞」には気を付けよう(上級者ほどよく引っかかる)

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国語、英語の読み方、解き方、勉強法や参考書、問題集の紹介

前回:古文(第6回)「識別②『なむ』」
次回:古文(第8回)「助動詞①接続を覚えよう」

以上で、第7回「識別③『に』」は終わりです。

ご精読ありがとうございました。

今回取り扱った「に」の識別は偏差値60を目指す生徒さんはぜひできるようになりましょう。それより上を目指す人は「考えなくても反射的にできるようになりましょう」。古文で時間を短縮して、現代文に時間をかけるのです。上級者の上級者たる所以は、「圧倒的な基礎力」です。まずは識別の種類を覚えて、練習を繰り返していくといいと思います。

次回は基本に返って第8回「助動詞①接続を覚えよう」にする予定ですので、よろしければ、次回も読んでいただけるとありがたいです。

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