古文に出てくる「なむ」の識別法:使い分けと見分け方(第17回)

古文の学習において、「なむ」の識別は非常に重要です。このガイドでは、「なむ」の識別方法とそれぞれの用法について詳しく解説します。特に受験生にとって不可欠な知識となりますので、ぜひ参考にしてください。

この記事はこんな人が書いています

塾長紹介

杉久保英司(すぎくぼ えいじ) 1976年生まれ。宮崎県出身。 九州大学教育学部(卒業)。 九州大学大学院人間環境学府人間共生システム専攻 臨床心理指導・研究コース(修了)。
ラーメン屋のバイトをしながら、独学で九州大学合格。 在学中から家庭教師・塾講師をはじめ 指導歴20年指導人数350名以上。
2020年に七隈国英塾を開きました。

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前回:第16回「係助詞『ぞ・なむ・や・か・こそ・は・も』『結びの消滅』と『結びの省略』

次回:未定

「なむ」の基本的な識別方法

終助詞「なむ」の使い方

未然形に接続する「終助詞『なむ』」は、文末に用いられ、
他者に対する願望」を表します。

現代語でいう「~してほしい」といった意味合いに近いと言えるでしょう。
例えば、次のような例が挙げられます。

*「花咲かなむ
「花が咲いてほしい
という他者に対する願望を表しています。

* 「小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの 御幸待たなむ」(『26貞信公(藤原忠平)』)
この文では、「なむ」は「もみぢに対して、(御幸:天皇の旅行)まで散らないで待ってほしい
という他者に対する願望を表しています。

終助詞「なむ」は、文末に用いられることから、
文末に「なむ」がある場合は、まず終助詞「なむ」の可能性を疑うことが重要です。

係助詞「なむ」の使い方

係助詞「なむ」は、文中で用いられ、体言・様々な語に接続します。
係り結びをする働きをします。

復習「係助詞」

「ぞ・なむ・や・か」→連体形
「こそ」→已然形


降る
こそ降れ

未然 連用 終止 連体 已然 命令
降ら 降り 降る 降る 降れ 降れ

係助詞「なむ」は現代語の訳はありません。

例えば、次のような例が挙げられます。

*「花なむ咲く
「花が咲く」
係助詞「なむ」は現代語訳しません。「なむ」は「咲く」を係り結びをしているので、
「咲く」は連体形です。

* 「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。」(『竹取物語』)
この文では、「なむ」は「けり→ける」を係り結びをしています。

未然 連用 終止 連体 已然 命令
けら ○○ けり ける けれ ○○

助動詞「ぬ」+助動詞「む」の使い方

連用形に接続する「なむ」は
完了の助動詞「ぬ」推量の助動詞「む」が組み合わさって「な+む」となります。

この場合、「なむ」は、

強意(ぬの未然形)」+
推量・意志・可能・仮定・婉曲・適当(スイカ替えて)「
となります。

例えば、次のような例が挙げられます。

*「花咲き」(連用形+「」+「」)
「花がきっと咲くだろう」(強意推量
という訳になります。

* 「恨みわび 干さぬ袖だに あるものを 恋に朽ち 名こそ惜しけれ」(65『相模』)
この文では、「なむ」は「きっと恋(の噂)で朽ち果てるような(私の)評判が惜しい」
という(強意婉曲)を表しています。

* 「今はただ 思ひ絶え とばかりを 人づてならで いふよしもがな」(63『藤原通雅』)
「今はただ (あなたへの)思いをきっと絶ちたい とだけ 直接 伝える方法があったらなあ」
この文では、「なむ」は「(あなたへの)思いをきっと絶ちたい
という(強意意志)を表しています。

助動詞「ぬ」+助動詞「む」は、文中に用いられることから、
文中に「なむ」があり連用形の場合は、まず助動詞「ぬ」+助動詞「む」の可能性を疑うことが重要です。
ただし、接続が未然・連用同形なら、文脈判断になります。

確述用法「なむ」

完了の助動詞「つ・ぬ」の下に推量系助動詞「む・らむ・べし・まし」がつくと、
「つ・ぬ」の完了の意味が消えて強意「きっと~」に変化します。
これを確述用法と言います。

確述用法8種絶対暗記事項

てむ  つらむ ぬらむ
つべし ぬべし てまし なまし


ナ変動詞+「む」の使い方

古文には、3つのナ変動詞「死ぬ」「居ぬ(いぬ)」「往ぬ(いぬ)」があります。

ナ変動詞の未然形の活用語尾「」+推量の「む」の形
「なむ」となります。

未然 連用 終止 連体 已然 命令
  に  ぬ  ぬる ぬれ ね

例えば、次のような例が挙げられます。

* 「願わくは 桜の下にて 春死な そのきさらぎの 望月のころ」(西行『山家集』)
「春に死にたい
この文では、「なむ」は

ナ変動詞「死ぬ」未然形活用語尾
意志の助動詞「む」
です。

「願わくは 桜の下にて 春なむ そのきさらぎの 望月のころ」
このような下線で聞いてきます。注意しましょう。

「なむ」の識別クイズと練習問題

「なむ」の識別クイズに挑戦しよう!

以下の文中の「なむ」を、
他者に対する願望の終助詞、
係助詞、
助動詞「ぬ」+助動詞「む」、
ナ変動詞+「む」
のいずれかに分類してみましょう。

問題『なむ』を識別しましょう」(下にヒントがあります

①誘う水あらば往なむとぞ思う。(往=い)
②うち捨て侍るなむ心苦しき。
③酔いて入りたまひなむとす。
④高砂の をのへの桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ

ヒント(分からないときは見ながら考えよう)
「死ぬ」「居ぬ(いぬ)」「往ぬ(いぬ)」


②「侍る」は何形?
ラ変動詞「あり」「おり」「侍り」「いまそがり」

未然 連用 終止 連体 已然 命令
ら  り  り    れ  れ

連体形は「未然形」や「連用形」ではない。


③「給ひ」は何形?
尊敬「給ふ」(お与えになる、~なさる)(四段活用
未然 連用 終止 連体 已然 命令
は    ふ  ふ  へ  へ

謙譲「給ふ」(~し申し上げる)(下二段活用)
未然 連用 終止 連体 已然 命令
へ  へ  ×  ふる ふれ ×

連用形接続の「なむ」はどれ?


④「あら」は「あり」の何形?
未然 連用 終止 連体 已然 命令
ら  り  り    れ  れ

未然形接続の「なむ」はどれ?

解答
ナ変動詞
係助詞「なむ
確述用法「」+「
願望の終助詞「なむ

問題『なむ』を識別しましょう」(下にヒントがあります

①誘う水あらば往なとぞ思う。(往=い)
「誘う水(人)がいたとしたら(ついて)往きたいと思う」
②うち捨て侍るなむ心苦しき。
「捨てるのは心苦しい」(係助詞「なむ」は訳さない)
③酔いて入りたまひとす。
「酔っぱらって(寝室に)きっとお入りになろうとする」
④高砂の をのへの桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ
「高砂の 桜が咲いた(見えないから)霞(かすみ)が 立たないでほしい

解説
「死ぬ・去ぬ・往ぬ」はナ変動詞。「去ぬ・往ぬ」は
「いぬ」とひらがなで書かれていることが多い。

②接続が連体形なので、願望の終助詞、確述用法、ではない。
ナ変動詞でもないので、係助詞「なむ」

③「給ひ」は四段動詞(尊敬)「給ふ」の連用形
連用形接続の「なむ」は確述用法「な」+「む」

④「あら」はラ変動詞「あり」の未然形
未然形接続の「なむ」は他者に対する願望の終助詞「なむ」

まとめ:古文の「なむ」の識別を極めよう

本記事のまとめとして、「なむ」の識別方法とそれぞれの用法について再確認します。

この章をまとめ
未然形+「なむ」、他者に対する願望の終助詞「~してほしい」
連用形+「なむ」、完了「ぬ」の未然形「な」+スイカ止めて婉曲「む」(確述術用法)
体言、様々な語+「なむ」、係助詞「なむ」
ナ変動詞「死ぬ」「去ぬ」「往ぬ」の未然形の活用語尾+スイカ替えて「む」

古文の文章を読む際には、「なむ」の識別方法を理解し、文脈から意味を解釈することが重要です。
本記事が、古文の「なむ」の識別を理解する助けになれば幸いです。

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